はじめに
慣用句や諺(ことわざ)の多くは、日常でよく起こる出来事や慣習的に知られている教訓に由来する言葉がたくさん使われています。先人たちの生活にまつわる知恵が慣用句や諺(ことわざ)として表現され、伝えられてきました。
では、日本で古くから親しまれてきたお茶(日本茶)にまつわる慣用句や諺(ことわざ)はどういったものがあるのでしょうか。
お茶(日本茶)にまつわる慣用句や諺(ことわざ)は、調べてみたところたくさんありました!
ここでは、有名なものと、あまり知られていないが役立つもの、興味深いものを選んで紹介します。
有名な慣用句や諺(ことわざ)
日常茶飯事
「日常茶飯事」は、日々のありふれたこと、いつものことで特に取り上げるまでもないものを表します。
「茶飯」とは、毎日の食事やお茶のことで、毎日ご飯を食べお茶を飲むように当たり前のことという意味となりました。
この言葉は江戸時代中期、煎茶文化が庶民に広がったことに伴い生まれたと言われています。
お茶を濁す
「お茶を濁す」は、出鱈目なことを言ったり、いい加減なことをしたりして、その場をつくろってごまかすことを例えていう言葉です。
茶道を知らない人が、適当にお茶を濁らせて抹茶に見えるようにしたことが語源とされています。
似た意味の言葉に「言葉を濁す」がありますが、「言葉を濁す」は言動のみに使われるのに対し、「お茶を濁す」は言動・行動どちらにも使われる点に違いがあります。
お茶の子さいさい
「お茶の子さいさい」は、とても簡単なこと、容易にできることを例えていう言葉です。
「お茶の子」とは、お茶に添えて出されるお菓子のことです。「さいさい」は、俗謡の「のん子さいさい」という歌詞をもじったはやし言葉です。
お茶の子がお腹にたまらない物であることから、お手軽・簡単な様子を表す言葉になりました。
茶柱が立つ
「茶柱が立つ」は、日本茶を淹れた際に茶碗の中で茶柱(チャノキの茎の部分)が縦に浮いた状態を言い、縁起の良いこととされてきました。
なぜ「茶柱が立つ」と縁起が良いのかというと、「柱」のイメージに関係しています。
柱には、物事全体を支えるものや人という意味があります。「大黒柱」などというように、しっかりした柱が立つことは家の繁栄を意味します。また、神様の数え方は、一柱、二柱となるため、神様の加護にも通じます。
茶柱が立った場合にどうすれば良いかは以下のように諸説があります。
- 茶柱が立ったことを他人に言うと、良いことがその人に移ってしまうので言わない
- 茶柱が立ったことを他人に知られる前に茶柱を飲み込まないと良いことが逃げてしまうので、まずは茶柱を飲み込む
- 茶柱を着物の左袖に入れておくと良い
残念ながら現在においては急須でお茶を淹れたとしても、お茶本体が茶碗に流れることは稀であり、茶柱が立つことはほとんど無くなっています。
茶々を入れる
「茶々を入れる」は、一生懸命に何かをしているところに横から口を挟んで、冷やかしたり混ぜくり返したりして、邪魔をしたり妨害したりすることを表しています。悪気があってすることではなく、冗談でからかうことを指す時に用います。
人が何かをしている時に中断して、茶を入れて一服することから、水をさすという意味になったと言われています。
粗茶
「粗茶」とは言葉通り、粗末なお茶のことです。
お茶を人にすすめるときに謙遜して、「粗茶ですが一服どうぞ」というように使われます。
人を家に招いた時や商談の場で、お客様にお茶を出す文化は残っており、その際によく使われる言葉です。
あまり知られていない慣用句や諺(ことわざ)
へそが茶を沸かす
「へそが茶を沸かす」とは、あまりにおかしくて、笑わずにはいられないことを例える言葉です。また、ばかばかしいこと、という意味もあります。
語源にはいくつか説があると言われていますが、1つは、江戸の浄瑠璃『前太平記古跡鑑』などに出てくる「へそを茶化す」という言葉が由来であるという説です。江戸時代では肌を見せる服もなく、おへそを見せることは笑うこととなっていたため、「あいつ、へそ出してるよ!」と笑われてしまうということがあったようです。その後「へそを茶化す」から「へそで茶を沸かす」に変化したと言われています。
また、笑ったときに、笑いすぎてお腹の皮がよじれた時の様子が、茶釜の湯が沸騰して湧き上がってくるときの様子に似ていることが由来とも言われています。
お茶を挽く
「お茶を挽く」とは、特に用事があるわけではなく、暇であることを表す言葉です。特に、芸者や遊女などに客がつかず、商売が暇なことを言い表しました。
茶の葉を挽いて抹茶を作るのが暇のある人の役割だったことが語源であると言われています。
鬼も十八、番茶も出花
「鬼も十八、番茶も出花」とは、器量の悪い女性でも、年ごろになれば女性らしい魅力や色気が出てくることを例えて言います。
粗末な番茶でも、出したては香りが良いものであることが由来とされています。
現在は女性を指して使用されていますが、古くは男女どちらにも使用されていたようです。
茶腹も一時
「茶腹も一時」とは、少しばかりの物でも、一時凌ぎの助けになるということを表現した言葉です。
一杯のお茶を飲むだけでも、しばらくは空腹をしのげることが由来とされています。
宵越しの茶は飲むな
「宵越しの茶は飲むな」とは、お茶は淹れたてが一番おいしいことを表現した言葉です。一晩放置したお茶は飲むな、ということです。
この言葉は実際に科学的な根拠もあると考えられています。
お茶を淹れることで茶葉にあるカテキンが流出します。抗菌作用があるカテキンが流出することで、タンパク質が留まる茶葉は腐敗が進みます。また、カテキンは酸化してタンニンという成分に変化します。タンニンが過剰だと胃の粘膜を傷つけ、消化液の分泌を妨げます。
「宵越しの茶は飲むな」の言葉通り、茶葉はあまり放置しない方がお茶を美味しく飲めて、健康にも良いと思われます。
朝茶は福が増す
「朝茶は福が増す」とは、朝にお茶を飲めば、その日のさまざまな災難を逃れることができるという意味です。
昔から朝茶は良いものとされており、信仰のようなものさえあったようです。
「朝茶」を使ったことわざは他にも、「朝茶に別れるな」(忘れずに朝にお茶を飲みなさいという意味)、「朝茶は七里帰っても飲め」(朝のお茶を飲み忘れたら七里の道を帰ってでも飲みなさいという意味)などがあります。
現代では朝の目覚めにコーヒーを飲む人が多いかと思いますが、食の洋食化以前の日本では長い間、朝にお茶を飲む習慣がありました。
茶は水が詮
「茶は水が詮」とは、良いお茶を淹れるには良い水を選ぶことが大事、ということを表現した言葉です。
「詮」には、なくてはならない大事な物や肝心な物という意味合いがあります。
お茶の種類によって、お茶にあう水は変わると考えられますが、なるべく美味しい水でお茶を飲むようにしましょう。
良い茶の飲み置き
「良い茶の飲み置き」とは、質が良いとされるお茶は、飲んだ後も香りや旨みがずっと口の中に残るということを表現した言葉です。
お茶を飲むときは、後味も意識することで、そのお茶が良いお茶か見極められるかもしれません。
さいごに
どうでしたか?
お茶にまつわる慣用句や諺(ことわざ)の中でも有名なものは、普段使わないまでも知っているものが多かったのではないでしょうか。
また、あまり知られていない慣用句や諺(ことわざ)の中にも、生活の中でお茶を楽しむために知っておきたい知恵が表現されていて、興味深かったのではないでしょうか。
お茶にまつわる慣用句や諺(ことわざ)は、この記事に載せていないものもたくさんあるので、気になった方は調べてみてください!